ひよこなひと/恋月 ぴの
 
変わらずおいらに背を向けたまま
夢の中で優しい言葉を囁いてくれた気がした


(七)

有頂天になりすぎていたようだった

精魂込めて作り上げた通底器
超現実主義者達の間で一躍評判になった
一点の曇りもなく叩き上げた真鍮の作り出す曲線を
ジョセフィーヌの柔肌のようだと褒め称えた

やがて海外からも注文が舞い込むようになり
一人前の通底器職人になったと勘違いしてしまった

そんなある日
おいちゃんと些細な事で口喧嘩してしまい
売り言葉に買い言葉

「ひよこはひよこでも
醜いあひるの子ぢゃねぇか」

おいちゃんの怒鳴り声に
おいらは根岸の家を飛び出してし
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