ひよこなひと/恋月 ぴの
 
てしまった


(八)

「ぴーちゃん寂しくないのぉ
おいちゃんのお葬式にも行けなかったしぃ」

まーちゃんが擦り寄ってきながら
酒臭い顔を押し付けてきた

他の店から流れてきたお客で
「ナジャ」はそこそこの賑わいを見せている

「この店自体が通底器だから」

そんなおいらの言葉に
「ぴーちゃん、通底…って何よぉ」
しなを作りながら問いかけてきたけど
それ以上は気にするでも無く
まーちゃんは何杯目かの水割りに手を伸ばした


(九)

ちょっとした更衣スペースの奥には
小さな仏壇
線香の香りは疲れきった心を癒し
お供え物にはおいちゃんの大好きな剣菱と
あの懐かしい厚焼き玉子

「これから会いに行くからね」

午前四時
唸り声にも似た音がする通底器に身を投げた



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