ひよこなひと/恋月 ぴの
出来の真鍮板をつっかえした
(五)
「石の上にも三年って言うじゃねぇか」
とある超現実主義者から注文のあった通底器
大切な仕事をおいらに任せてくれた
その日から仕事場に篭り
精魂込めて真鍮板と向かい合った
血豆がつぶれようと
寝る間も惜しんで真鍮板をとんとん叩いた
ひよこだって
ひよこだって
おいらは心のなかで何度も叫んだ
(六)
新宿二丁目に会員制バー「ナジャ」は在る
カウンターだけの小さな店
開店に向けて
氷屋から仕入れたオンザロック用の氷を砕く
昨夜は久しぶりにおいちゃんの夢を見た
「涅槃で待っているから」
相変わ
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