ひよこなひと/恋月 ぴの
 
どこからともなく唸り声にも似た音がして
おいらの鼓膜を揺さぶった


(三)

縁日で売られていたおいらを
おいちゃんは
家族と分け隔てなく育ててくれた
ひよこのくせして卵焼きの大好きなおいらのために
ほくほくの厚焼き玉子を作ってくれた

「うめぇかい」

卵焼きにぱくつく
おいらの姿に満足げな笑顔をみせていた


(四)

「どうでぃやってみるか」

おいちゃんはそう問いかけてくれた
見よう見まねの職人修行
とんとん木槌で真鍮板を叩いては
恐る恐る差し出してみても

「まだまだひよっこだぁ」

おいらに背を向けたまま
人肌とは程遠い出来
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