「僕の村は戦場だった」を傍らに置いて/千月 話子
 
脱力した僕の右手に握られ焼き付いた
君の髪飾りの淡く色の残った小さな花束を
生きた左手が力一杯持ち上げて
静かに揺り 振る
僕たちを 許してくれますか?


*******


美しい村だった
子供らの靴音を弾ませた歩道は
山のような瓦礫に覆われ
高く鳴く小鳥の巣が
燃えた風に散り 命も無くなって



呼び鈴と扉だけが残った家の
リビングという所から
初老の男が現れる
堅いパンとコーヒー
家族の写真を連れて



火にかけられた小鍋から
湯気が立ち登り
アムールが そこから生まれ続ける
彼はここを 決して離れない


*******
[次のページ]
戻る   Point(8)