「僕の村は戦場だった」を傍らに置いて/千月 話子
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湯浴みする僕の細い背中を
湿った土色の軍服を着た男が
何かを探すように じっと見詰める
僕の翼は何処へ行ってしまったのだろう
折れた小鳥の羽のように
ズキズキと背中が痛くて
何度も 何度も
見えない血を洗い流した
明日僕も この男と同じ格好をして
手も足も 背中さえ汚して
君とは違う場所へ
行ってしまうのだろう
君に教えてもらった
美しい異国の言葉を
ひとつ 心に持って
この 堕ち行く戦場で
殺める時も救われる時も
お前の名前を呼んでいた
アムール・・・
アムール・・・
と
(僕達の村が戦場だった頃生まれた お前の名前)
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