夏の終わり/吉田ぐんじょう
・
夜
飲みさしのコーヒーの中に
砕けた夏を発見した
掬い上げようとしたら
逃げるみたいに砕けて沈み
底の方で銀色に光っている
人差指でかき回すと
跡形もなく溶けてしまった
ベランダに出て
夏の溶けた後のコーヒーを飲む
風と植物と雨の味がした
・
八月も終わりに近づくと
薄荷飴をすべて舐めてしまわなければ
という一種の強迫観念に襲われる
寒くなってから薄荷飴を舐めても
さみしくなるばかりであるから
部屋じゅう探すと
靴の中や戸棚の裏や部屋の隅なんかに
夥しく落ちている
それらを拾って口に入れる
薄荷飴の楕円形は足跡に似ている
もしか
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