銀色の眼鏡をかけた車掌/りゅうのあくび
特急の追い越しのため
列車の停車中に
駅の端では若い女の車掌が
さりげなくにこやかに
初老の車掌と交代していた
ちょうど明日を
告げようとする頃に
常夜灯の近くを飛び回る
一匹のコガネムシが
出発予定のダイヤグラムを
いたずらしようとしたのか
車掌の胸に着地するものの
白い手袋の手は
優しく握られたまま
指差し呼称を続けている
「尾灯ヨシ。前ヨシ。出発進行。」
深夜発の各駅停車の
車両は発進する
虫さえも乗客のうちに
数えるみたいにして
乗客を家族のように
見守るまなざしにかかる
銀色の眼鏡のレンズからは
夏のうだるような
暑さも透明
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