銀色の眼鏡をかけた車掌/りゅうのあくび
 
透明に見える
昼間の陽射しは
二本の轍を行く鉄骨のレールを
何十キロも先の
終着駅まで十分に熱していて
夜の線路も
暑さで伸びきっていた
ローカルの駅を発進した後の
最後尾の車窓は
乗客のぎゅうぎゅうに
乗っかっている列車が
逝く過去の残像が
次から次へと排出されていく
唯一の出口であって
車両が安全に運行している
かどうかを点検する
最後の見晴らし台でもある
車両横のドアのガラスは
手動で開けられるようになっていて
軽やかに涼しい風が入ってくる


「嗚呼、次は、上北沢。上北沢。」


白い手袋で拡声器を握って
よく通る高くかすれる声で
次の到着駅を伝えている平行に
走っているはずの夜の遠くの
線路は少し曲がりながら
次の駅へと近づいていた
最後尾の車窓から見える
夜更けの夏はただの
暗闇の色よりもずっと純粋で
穏やかな黒色をしていた

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