都市伝説/吉田ぐんじょう
 
いない家に帰ってきて
ただいま
と言って
おかえり
と返されたらどうしようと思うからだ

シャンプーをしているとき
振り向かずに何か作業しているとき
ベッドに横たわって本を読んでいるとき
確かに人の気配を感じるので
この家にはわたしの他に
透明な人間が住んでいるに違いない

それが声をかけることによって
実体化してしまうのが厭なのだ

ベッドの下を覗いてみる
埃まみれのその空間には
誰もいなかったからよかった
けど
奥の方に何か押し込まれていた
引っ張り出してみるとエロ本だった
外国のものすごいエロいやつ
ページが少し湿っている
こんなもの買った覚え
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