あんぱんを齧る宵/一番絞り
 

この電車に乗ってぼくはづっと揺られてきたんです。
どこから来たのかも
どこへ行くのかも考えずに
づっとゆられてきました。
がたごと、がたごと、ぴーーぽーぉぉぉぉー。
おや。
いつのまにか下車の時刻だ。
電気軌道鉄道列車は再び動き出します。
アンパンをポケットに突っ込んだぼくは
無人の東長門峡駅に立っております。
どうしてポケットにアンパンなのかと聞かれても困る。
寂しい男なのです。
東長門峡駅にはなーんもなくて
標識の前に農道があるだけです。
農道はまっすぐ日本海をひかえた山あいに伸びています。
山と山の重なる稜線のあいだに煌々と光る月。
満月です。
そう、
[次のページ]
戻る   Point(10)