無人駅のひと/恋月 ぴの
 
帯電話とか便利なものがある時代では無かったし
あなたからの手紙は総て破り捨てられてしまった

地元の男性と結婚して今では子供がふたり
あの頃のわたしが求めていた変化
それを我が子に託すのが母となった女の定めなのだろうか


(6)

温泉巡りを兼ねた夏山登山の帰りだったのか
定年退職を迎えた公安の刑事と道の駅で出会った
咥え煙草をもみ消したつま先からは未だに刑事特有の臭いがした

その男が押し付けがましく語り出すあなたの最後
対立するセクトのメンバーに側頭部を鉄パイプで叩き割られ
即死状態だったあなたの手首に手錠をかけた薄汚れた掌

内ゲバで死ぬなんてなあ

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