無人駅のひと/恋月 ぴの
のアパートに転がり込んでいた
ある種の感情の表現
例えば好きだとか愛しているとかの言葉が
あなたの薄い唇から一度も発せられたことは無かった
冷たく光る瞳に映るのは
枕を濡らす情愛に溺れた女の痴態と
男の肩にしがみつこうとするわたしの白いうなじ
(3)
あなたが革労協の主要メンバーだと知ったのは
ふたりで暮らしはじめて半年ぐらい経ってからだった
ゼミの授業を終えてアパートへ戻ると
黒いヤッケにナップザック
そして野球帽にマスクをした男達が数人
狭い四畳半に篭り一晩中何やら話し合っていた
ときおり窓から向かいの路地裏を見下ろせば
公安の刑事らしき男達が
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