孤独なひと/恋月 ぴの
な
ベランダの消防士は携帯で撮影してしまったけど
警察官の姿までは撮影はできなかった
それでも秋葉原の事件で被害にあったひとを
携帯で撮影しまくったという群集心理が
少しだけ理解できた気がした
やがて窓を叩き割った消防士が
玄関前で待機していた救急士を招き入れ
ひとの形をした物体を担架に乗せ玄関から運び出す
わたしは携帯で撮ることはしなかった
頭の先から爪先まで布で被われた
動こうとはしないもの
数日前までは確かに生きていたという痕跡を残し
硬直しきった遺体の突きつけてくるもの
とりおり玄関の扉の隙間から
ものものしさを残す部屋の方向を窺ってみれば
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