猫の記憶/ホロウ・シカエルボク
 
ずセロファンのような厚みの檸檬の輪切り

ふ、とため息をつくと

ほのかにそれの香りが風に乗ったものだった


猫が好きだ、とよく言っていた、「人となりも知らずに惹かれてしまうような」彼らの奔放さが

何故だか大好きで堪らないと

いまにして思えば、そんなふうに語るときでさえ
ほんのかすかな乱れさえ見せることは無かった


柱時計があった場所から
なるはずのない時報がひとつ聞こえた

生活とはそんなふうに染み込んだひとつひとつなのだと
無人に近いようなひとりの部屋の中で

なるはずのない時報が


そうした奔放さが、あのひとの望みであったのなら、むし
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