フェンディの112万のコート/チアーヌ
に声をかけられ、わたしは思わず頷いた
店員がわたしの肩にそのコートを掛けてくれた
鏡にそのコートを着たわたしが映った
自分で言うのもなんだけど
それはわたしに似合っているように見えた
どこの誰でもないなんの力も経歴もない
家出したばかり将来の展望もない何も見えない
仕事もお金もないわたしはただのウェイトレス
でもそのコートを着た瞬間だけわたしは
10年前に戻ったような気がした
または、遠い未来へ自分がスライドしたように思った
わたしはそっと値札を見た
12万
だと思った
それだって高い
でも違った
よく見ると、棒が1本多い
112万
それがそのコート
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