「 雨の日にはかなしみに服を着せ、 」/PULL.
雨の日にはかなしみに服を着せ、傘を持たせて出歩かせる。普段は裸のかなしみは、はじめ服を着るのを嫌がるけれど、すぐに慣れてはしゃぎだすのが、いつものこと、ぴったりした服よりもゆったりした服の方がかなしみは好き、緩んでしまうのはいけないことだとあのひとは言ったけど、あのひとはもういないからゆったりと緩んでしまうけど、緩んでしまうといつもあのひとのことばかり考えて服の下のかなしみはちょっぴり窮屈になる、窮屈な肩は傘にぴったりと納まって、雨に濡れない、いつか雨の日に雨に濡れないのはもったいないことだと言ったら、あのひとは黙って、傘に入れてくれた、傘の下はざあざあと音はする
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)