「 雨の日にはかなしみに服を着せ、 」/PULL.
 
するけど雨は少しも降ってなくて、あのひとだけが、泣いていた。

 玄関を飛び出して駈け出してゆくかなしみは振り返らない。傘を広げ、その下でちゃぷちゃぷと、いくつもの水溜まりを踏み鳴らし、一心に、向こうまで駈けてゆく、雨のカーテンがはらはらと揺れている、かなしみは行ってしまった、水溜まりが淡々と波紋を広げ、かなしみの、足跡を消してゆく。












           了。


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