潰れた酒屋の勝手口をノックしているハスキー・ボイスの若い女/ホロウ・シカエルボク
そういう思いは伝わらないものさ、と俺は慰めた(われながらありきたりな言葉だと思いながら)
「そんなことじゃないんだ、そんなことじゃ…」
やつはしばらくそうつぶやいたあと、爪先の少し先を見つめながらこう言った
「これで楽になれる」「そう思ったんだ」「もう躍起になって慣れないことをしなくてすむってな」
俺はやつの顔を見なかった、おそらく他人に見られたくないような顔をしているんだと思った
「あれが出て行くのも当然のことだ」
だけど、と俺は言った
別に何か言うことを用意していたわけじゃなかったが
「だけどあんたはいまもここで彼女の誕生日を祝ってる」
そしてもらったビールの缶を開けた、
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