豆腐/鈴木陽
 
ない豆腐とは、どこまでもやがて豆腐。あらゆるものは、豆腐。

豆腐の記念立方に堂々と記されている「豆腐」という豆腐を前に、僕はあきらめて途方も無い豆腐の心を知ることをやめ、ややいたずらな気持ちで、豆腐の裏に回る。どこまでも滴る豆腐の形相。あくまでも豆腐。どこまでも豆腐。細く白い豆腐の路地を抜け、仰ぎ見れば、豆腐の脇には豆腐の顔があり、ふっくらとした白い頬があり、瑞々しい唇があり、透き通ったまなざしがある。初恋のように美しく白いその豆腐、豆腐を見ながら僕らは豆腐を考える。豆腐にもいろいろあるだろう。賢治の豆腐。中也の豆腐。しかし、泰然と振動を続ける豆腐こそが真の豆腐である。三全世界の豆腐といい、
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