沼の主/チアーヌ
 

 叫び声も虚しく、俺はあっというまに沼の中へと引きずり込まれて行った。

「何、焦ってるのよ」
水の中で、女が笑いながら言う。ゆらゆらと深緑色の髪が揺れている。
「びっくりしないでよ。ほら、大丈夫でしょ」
そういわれて、俺はふと気がついた。俺はしっちゃかめっちゃか手足を動かして、慌てて水面に這い上がろうとばかりしていたけれど、よく考えたら全然苦しくなんかない。
「不思議だな。どうして平気なんだろう?」
「それはね、わたしと一緒だからよ」
女はそう言うと、俺の手を握った。その手は、思いのほか、温かかった。
「さあ、いらっしゃい」
「どこへ?」
「いいから黙ってついて来なさ
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