呼ばれてきた男/あおば
080509
神経質な男がいた
体温計の目盛りが
37℃を越えたと
大騒ぎする眼をなだめ
再測定を促すためにも
新たな予兆が期待される
男は毎夜壁を抜け
入院患者の心を悩ました
再測定いたします
体温計が取りだされ
声が命ずるままに
脇の下にはさまれ
特等席で縮こまる
ぬくぬくした時間が経過しても
37℃を越えない限り
安全だと言い張る神話を
赤い文字が後押しする
つまらない顔をした男が
壁を抜けて
呼ばれてきた男に
体温計測不能を告げる
新たに再測定するかどうかの判定は
壁を抜けて呼ばれてきた男の判断に委ねられる
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