呼ばれてきた男/
あおば
れる
今では壁は脆く、誰にでも抜けられるのだが
敢えて抜けようとする者もいない
壁を抜けてきた男は孤独を患い
ここでも体温計を持ちだして
放射線治療の是非を議論している横を
足早に通り過ぎて
窓の外に投げ捨てる
ガラスが粉々になり
水銀だけが取り残されて玉になり蹲り
呼ばれてきた男はここでも仕事を失い
虚ろな顔して歩きだす
今度だけは方角を違えずに
方位磁石を携えて
風に逆らい雨の降る日は傘を広げ
ゆっくりと彷徨った
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