海に似た形の、しかし実体のない女を語るように/2TO
 
詞による区別こそが、「私」と「他者」との本性の差異を示しているのである。

そして、

隙間なく突き立った庖丁を、明滅する影がなんども打ち付ける、果てしなく伸びる棘だらけの影、その先端が彼女の足をほんの少し傷つけた。

という一行に、「明滅する影」という「作者」と「彼女」との闘争が、「女たち」という「他者」の影、つまり、「棘だらけの影」と姿を重ねる。「棘」とはその重なりによって生み出された「パルス」の新たなニュアンスである。そして「彼女の足をほんの少し傷つけた」ものこそ、「身体」として表された「私」と「三人称の他者」とを隔てる「差異」そのものである。
{引用=
象の鳴き声
[次のページ]
戻る   Point(4)