大力の女/チアーヌ
 
だった。

そんなある日。入社して確か、半年も経っていなかった頃だ。
とんでもないことが起こった。
社に、おかしな男が乱入して来たのだ。
男は鉄パイプとナイフを振り回し、「社長を出せ!」と叫んだ。
そして受付に座っていた彼女を捕まえ、人質とした。
とっさのことで、受付には人も少なかったし、皆凍り付いた。
人質さえいなければ、誰かが取り押さえたところだったろうけれど、今となってはそうもいかない。
たまたまその場に居合わせた俺は、とにかくなんとかしなければならないと、拳を握りしめていた。

人質になった彼女は、突然のことで驚いてはいたようだけれど、案外冷静な表情で、辺りを見回して
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