「 手眼。 」/PULL.
 
だった。わたしの手は眼であり心だった。やさしい感触ものに触れているとわたしは心までやさしくなった。だが久しくわたしは、そのような感触のものに触れていない、あるのはぶよぶよとした、これだけだ。ここにいると、心までがこのように感じられる、ぶよぶよとだらしなく歪み膿んだ心、それがわたしだ。わたしの心は触れるとぶよぶよと歪み、きたならしい汁を出す、汁はわたしの手を犯しわたしはかぶれ、わたしの心はさらにぶよぶよと歪み腫れ上がり、膿んでゆく。わたしの眼はもう何にも触れられない触れたくない。


 屋上に出ると、空には空も太陽も雲もなく、手が、波打っていた。一面に広がる無数の手は何をするでもなく虚ろに開き
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