「 手眼。 」/PULL.
 
手が、ひとりでに動き出した。手は確固たる指取りで階段に指を掛け、一段一段ずつ、昇ってゆく。疲れているので手にあらがおうとするが手の指取りはとても力強く、ずるずると引きずられ、昇ってゆく。
 引きずられてゆくうちに階段の窪みや角に擦られ削られ段々と、丸みを帯びてきた。丸みははじめつるりとした皺のないものだったがしばらくするとそこに、皺ができ、皺は五つに分かれた。指取りはさらに勢いを増しずんずんと音を立てて階段を駈け昇り、皺はさらに深く刻み込まれてゆく。


 手には触れる、感触がある、感触だけがわたしの眼だ。なめらかなものはなめらかに心が、尖ったものは皮膚だけでなく心までが痛く、感じるのだっ
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