「 手眼。 」/PULL.
 
つくかたく、閉める閉じる。


 わたしの手には眼がない。だからわたしは手を開き指を伸ばし、こうやって這いずってゆくしかない。伸ばした指を懸命に縮め、ずるずるとゆく、やがて要領を覚え、指を支えにして立つ、五つの指を交互に動かし歩き出すが、それぞれの指はてんでばらばらに動き指並みが揃わない、薬指が中指に向けて曲がっているのでことあるごとに絡まり、指躓く、辺りはどこまでもぶよぶよとしているので指躓いても一向に痛くはないが、どこにも壁がない、歩き出しても壁がないのが気に掛かりまた薬指が絡まり、指躓く、やはりぶよぶよとしていて壁は、どこにもない。


 階段を昇り疲れ踊り場で休んでいると、手が
[次のページ]
戻る   Point(3)