蜜柑の木 /服部 剛
 
の日の僕が 
なんとかめげずに腰を上げ 
職場に向かって歩いてこられたのも 

不器用な僕の手を 
必要としてくれる 
あなたがいたから 

早めに仕事を終えた日に 
車椅子を押して外に出た芝生の庭で
一緒に眺めた夕焼けを 
忘れることはありません 

時は流れ 
10年目になる僕の周囲から 
たくさんのお年寄りが 
空の何処かへ消え 

いつのまにか
満員になってきた 
空の応援席から微かに聞こえる 
風の声援を背に受けて 
これからの日々を歩いていきます 

まだ若かった頃に夫を亡くし 
女手ひとつで二人の子供を育てた 
Eさんの人生の最終章
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