蜜柑の木 /服部 剛
 
終章 

娘さんと息子さんは 
毎日朝から晩まで 
ベッドの傍に
寄り添っていました 

仕事帰りのお孫さんが駆けつけて 
「おばあちゃん」と呼びかけた時 
下がっていた心電図の直線が
上がりました 

白いベールを被る
安らかな寝顔の傍らで 
両手を合わせた後 

病室を出た僕は 
食堂の窓外を眺める

Eさんが小さい種から 
時間をかけて育てた 
大きな蜜柑の木 

緑の葉を春雨に濡らし 
いつまでも変わらぬ姿で 
今日も独り立っています 







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