『狐憑き』/しめじ
 
った。

「妻は君のところにいるのかな」

 男は私の言葉を無視して作業を続ける。冬だというのに部屋の中は蒸し暑く、ぬるりと脇の下を汗が流れた。

「妻は元気かな」

 荷造りを終えた男が顔を上げて私を見る。黒目がちの瞳。どこかで見たことがあるなと思った。

「元気ですよ、おかげさまでね」

 男はそう言って口の端を持ち上げて笑った。なぜだか分からないが胸の中が熱くなった。ちょうど言われもない罪をなすり付けられたときのような気持ちだった。

「それではごきげんよう」

 男は私を見て笑った。今度の笑いはとても美しい笑顔だった。呆然とする私を置いて彼は苔むした門をくぐ
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