『狐憑き』/しめじ
 
くぐり消えていった。

 あっと気付いて私は男を追いかけた。あれは間男だ。妻は男と逃げたのだ。家の前のつづら折りになった坂道に男の姿はどこにも見当たらない。やるせない気持ちで縁側に戻り腰掛ける。夕焼けが辺りを包んでいた。軒に吊した風鈴が鳴った。私は思いついたように風鈴を外すと、思い切り地面にたたきつけた。ばりんという音がして夕日が真っ二つに裂けた。

 途端に屋敷が消えて、私はだだっ広い野原に仰向けになって寝ていた。

 枯葉の上に粉々になった風鈴の欠片が赤い光を止めて鈍く光っている。カラスが西へ飛んでいく。仰向けになったままぼんやりと空を眺めていた。夜がやってくる。
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