『狐憑き』/しめじ
 


 妻が狐憑にあって家を出てから今日でちょうど二ヶ月。その間私はずっと家の中で待っていた。ひょんなときに戻ってくるやも知れん。それに荷物だって部屋にある。病気を悪くしていないか心配だった。幸いなことに今年の冬は暖冬であった。庭に植えた紅梅が既に満開だった。

 振り返ると見知らぬ男が妻の部屋に立っているのが見えた。男は箪笥を開いてなにやらがさがさと動いている。近づいてみると妻の肌着や着物を風呂敷に詰めているのが分かった。

 私はその男を反射的に妻の弟だと思った。実際妻には弟がいると聞いたことがある。彼は外国に行商に出ているそうで婚礼の席にも姿を見せなかった。今日が始めての対面であった
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