虚偽と忘却のエピソード/atsuchan69
 

 「私たちの子供は、まだ生まれるまえに死んだの」
 「おい、その話はやめろ」
 「この罪は、一生涯かけても消せないのよ」
 「もういい、早く忘れるんだ!」
 「だから私。罪滅ぼしに毎日、詩を書いて読んであげるの」
 彼女は、詩のつづきを朗読した。

  ときおり薬指を刺す、
  あの小さな針の痛み――
  聖歌隊の歌声から
  私をここへ連れもどすのは
  悪戯な夜風にそよぐ
  つよく、しなやかな絹の糸

  漆黒の窓の外で一瞬を照らす
  とおく華やかな光と雷鳴

  暗い路地のどこかで
  捨てられた子猫が鳴くように
  街一番の望楼にのぼってさえ
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