虚偽と忘却のエピソード/atsuchan69
 
さえ
  手のとどかない空しさがあるように
  
  滲んだ指の血を舐めては
  まだ、私はここにいる
  
  私は、下町の針子
  あなたの顔を待ちわびて
  仄かな夜のしじまに
  純白のドレスを縫いつづける

 「理沙、たのむから止めないか」
 わたしは飛びだして彼女を抱きしめようとした。
 「待て」
 Yが、わたしの腕をつかんだ。
 「おーい、可愛いオネエちゃーん。オイラと遊ぼう」
 彼女の背後から、どこかで見た覚えのある太った男があらわれて浅い水辺に立った。
 すると突然、沼の水がしぶきをあげた。
 男は驚いて腰をぬかしたが、既にフルフルの鱗のある長
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