虚偽と忘却のエピソード/atsuchan69
すると沼の淵にぼんやりと人の影が浮かんだ。
「見ろよ、やっぱり人だ。それも女じゃないか」
「幻覚だ、あれには実体がない。しかも私には少年に見える」
「嘘をいうな。お前、まさかあの女を‥‥。何処から捕まえてきた? 精神病院か」
「落ち着け、餌なら別に用意しているさ。お前が見ている女も、その声も、フルフルが餌の捕獲のために流している電磁波にすぎないんだ。女の顔をよく見ろ、君は彼女を知っている筈だ」
「え?、」
わたしは女の顔を見た。「――理沙!」
それは紛れもなく、半年前に退社した営業二課の海老原理沙だった。
化粧崩れした理沙は、着物姿のバービー人形を抱いていた。
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