虚偽と忘却のエピソード/atsuchan69
 
せせらぎ。バニラの香りのする甘いそよ風が微かに木の葉をゆらしていた。
 「どうだい。これこそが君たちの想いうかべる天国の類型構造そのものだろう。ちがうかい?」
 「知らねーよー」なんだか馬鹿にされているように感じ、剥れた顔でそう言った。次の瞬間・・・・。わたしは、とつぜん大きく仰け反った。「゙あー、いだ、いだー!」
 「おー、見ちまったのかい。でも今のは錯覚だったかもしれないぞ」
 「フ、フ、フ・ル・フ・ル」
 ――ヤツは空を飛んでいた。
 剛毛に覆われた下半身のぶら下げたアレがとてつもなく巨大なやつだった。顔は、まさに蛇の眼をした角のある牡鹿であり、背中には蝙蝠のような黒い翼があった
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