眠れる彼の春/藤原有絵
 
の元へやってくる
そっと抱いてやると
涙はひき 赤子のように
すっかり私の腹におさまっていく

私は取り込んだ感傷に負けじと
心を凍てつかせながら
生者の眠りが
死者の回帰が
静謐のなかに起こることを
直(ただ) 長い沈黙に祈り続ける

歌は忽如とやってきて
機を織るように規則正しく
私の胸を震わせて
彼の眠る場所を示唆し
星彩に染まった地図を織り込む

眠れる春は ただ美しく
悠然と結ばれた薄い唇が
陶器のような白い肌が
長い睫毛の落とす影が
私の心を捉えて 熱が生まれる

抗う事は許されず
私は永遠のような一瞬の中で
恭しくその頬に触れて

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