眠れる彼の春/藤原有絵
の元へやってくる
そっと抱いてやると
涙はひき 赤子のように
すっかり私の腹におさまっていく
私は取り込んだ感傷に負けじと
心を凍てつかせながら
生者の眠りが
死者の回帰が
静謐のなかに起こることを
直(ただ) 長い沈黙に祈り続ける
歌は忽如とやってきて
機を織るように規則正しく
私の胸を震わせて
彼の眠る場所を示唆し
星彩に染まった地図を織り込む
眠れる春は ただ美しく
悠然と結ばれた薄い唇が
陶器のような白い肌が
長い睫毛の落とす影が
私の心を捉えて 熱が生まれる
抗う事は許されず
私は永遠のような一瞬の中で
恭しくその頬に触れて
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)