眠れる彼の春/藤原有絵
 

彼の命を呼び覚ますため
柔らかな唇に口づけをする

そのとき
温かな痛みに包まれながら
私は一つだけ恋を産み落とす
凍てついた私は溶け出し
意識を手放しながら彼へ流れる


私は冬で
彼は春だ

春は夏に焦がれて
夏は秋に黄昏れる
秋は冬を求め
冬は春に恋をする

気の遠くなるような時を
ただ繰り返し
恙なく続く儀式 四季


どんなに切望しようとも
私が彼の声を聞く事は叶わず
開かれた其の瞳の色さえ知らない

私が恋をする者である事も
彼が知る事は 決して ない

等しく愛するため
全てに愛されるため
彼は幾度となく
息を吹き返す


世界は彼を待っている


そこに
私は存在しない

私の産み落とした
一つの恋が
やがて
あたたかな風と成り
あまねく光と成り
彼に歌を教える






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