鷺草のよう         /天野茂典
 
のだ
  石をなげろ あの家族のあたたかい団欒の窓に
  八王子行きの電車の明るい窓を見ては 家郷のことをおもった
  父は横浜紅葉坂の おかめ寿司に奉公にだされていたのだ
  小学校は 卒業していなかった
  父はハンサムだった 凛々しかった
  父は後に 亜細亜音楽団にはいってトランペットを吹くが
  なぜか父のブロマイドは テナーサックスなのである
  もちろんサイン入りである 父は役者になりたかったのだそうである
 ぼくとぼくの弟には子供がいない 弟にはすばらしい嫁さんはいるが
 影響の少なかった妹だけに 子供がいる
 ぼくはおもった おさないこころで
 父のふかい
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