浴室/雪間 翔
です。
わたしの耳は浴槽の水圧によって、ほとんどだめになってしまったからです。
聴こえるといえば、こもったような鈍い振えだけがときどき感じられるくらいで、
それはおそらく水と接している身体を使って、
外の振えを感じ取れるようになったからでしょう。
ですからさきほどのあなたの愛撫にわたしの身体は、悦びを隠せませんでした。
(この手記を書いているとき、彼女はまだ生きていたのだからこの表現はとても不自然である。
彼女は事前に死後の自分を思い描いてこの手記を書いたのだろうか。)
3月28日
この浴槽に沈んでから、わたしは生前よりも満たされるようになりました。
あ
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