浴室/雪間 翔
 

あなたはよく言っていましたね。
「体液には魂が宿る、接吻とは魂と魂の交換である。」と。
あなたはみなまで言いませんでしたが、ふしだらな娘で御免なさい、
たとえば閨事だって口とりだって、魂の交換になるのではなくて?
だからわたしもあなたの魂に沈められて、わたしとひとつになったのです。
浴槽一杯の愛で満たされてしまったのだから、わたしにはもう呼吸も鼓動も必要ないのです。

(もう一度浴室の扉を開けると、饐えたような強烈な臭気が鼻をついた。
これは間違いなく男性の精液の臭いだ。彼女の死体は浴槽一杯の精液に沈められていたのである。
発見時、半透明の水面から彼女の顔は髪、睫、
[次のページ]
戻る   Point(1)