サークル/鈴木
 
て、「ぽおつ升」から通常二分のところ五分かかって坂を上り大学最寄駅にやっとこさ辿りついたのが冒頭から十分前のことでありました。「財布を抜くのはいかがなものか」と、はるか先輩の勘定を立て替えた鈴木は悲しそうな表情で「貴様らあそこには近づくんじゃないぞ」と坂の頂上に聳えるラブホテルを指差しました。けれども駅から歩いてさほどかからぬ場所に部屋を借りている僕に対しての皮肉としては二流未満で、またしても彼は文士としての未熟を曝け出したと思われました。「じゃあね」「お疲れ」はるか先輩を僕に預けて文学かぶれは線路沿いに歩き去ったのですが、一度だけ振り返り電飾で緑に染まった左眉を吊り上げたのが印象的でした。
 
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