サークル/鈴木
 
要な要素と思われる洞察力を発揮することなく淡々した調子で告げました。「そうか。そろそろ出よう。やっこさん、待ちくたびれて寝てしまったよ」「え」酒場のトイレは一挙に似つかわしい空気を取り戻したようでした。
 店の外は肌を切り刻むような寒波と酒屋の立ち並ぶ学生街特有の熱気の相克から作り出された夜半でした。壊れてしまった若者が道のあちこちで吐くやら口説くやら倒れるやら抱き起こすやら千鳥足で歩くやらするさまを街灯がつややかに照らし出していました。男二人で女一人とはいえ重心を失った人間を暴徒の中でスムーズに運ぶのは難しく、しかもはるか先輩は、担ぐ下僕を詰りながら両掌で耳や鼻をつねってくる次第でありまして、
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