サークル/鈴木
いてギターケースを背にした大柄な男が転がり込んできました。「芳久先輩」僕が素っ頓狂な声を上げると先輩は破顔して「飲むぞ」。芳久先輩は僕から見て激情の人でした。激情を押し留めているような眼の間に激情が吹きぬけようとして高くならざるを得なかったみたく鼻が隆起し激情を漏らすまいとするごとく真一文字に結ばれた唇が激情を言葉にしてかせずとも吐き出すのです。したいことをする。まさしくロックを体現する男でした。それは恋敵というよりも、性的魅力で僕を魅了するはるか先輩と対をなすにふさわしい、カリスマティックな憧れでした。二人の関係を知ったときにも僕は自己の道化っぷりを責める気持ちだけが起こり、芳久先輩への悪感情は
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