蝉の砂時計/たりぽん(大理 奔)
 
蝉を育む一本の木はまるで砂時計のようだ。地表を軸として蝉の季節を回転させる。地中の枝が包み込む宇宙は、空にむかう根の掴み損ねた世界より暖かい。蝉は地中を旋回する。生は窓越しに明るい空を見上げている私の足下にある。地面からすら切り離され、私は充ち満ちた空から追放された。だから空に伸ばす両手は空に伸びる枝の一本に似ている。私は死をもって空に還るだろう。充ち満ちる事のない空にあこがれて立ち上がった報いとして。私の手は掴むことのできない空を必死に握りしめる。

 ふとクジラのことを思う。

 なぜクジラは空にむかってはねるのだろう。海は蝉の大地のように豊かだ。そして何よりも充ち満ちている。はねる。
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