「 いつか、どこかで春が。 」/PULL.
 
をした空が、雲ひとつ
ない空がじっと、あたしを見つめて、いる。
 こどもの頃、あたしは何かとよく泣くこど
もだった、外に出ればいつも、近所のこども
たちにからかわれ、泣いて、家に逃げ帰って
いた、もう外に出たくない、外の誰とも遊び
たくない、そう泣きじゃくるあたしを、母は、
か細くて、骨張っていて、決してやわらかく
はないけれど、だけどとっても、とってもや
さしい匂いのするあの手で、あたしを抱きし
めて、こう言うのだった。
「ほら、また眼から雨が降ってる。あなたの
眼はね、お父さんとおなじであの空の色をし
ているの、だからね、ときどきこころが曇る
と、眼から雨が降るの。
[次のページ]
戻る   Point(2)