批評祭参加作品■回り道、つぶやく。 ??五十嵐倫子『空に咲く』について/岡部淳太郎
ち上げることが可能になっているのだということも言えるだろう。
たとえばAという状況があって、そこに語り手の心情Bを投影するというのが、日常から詩情を立ち上げる際の一般的な手法である。この場合、語り手は最初に示された状況Aの裏に隠れている。そして、詩の核心となる箇所(多くの場合は詩の結末の部分)でひょっこりと語り手の心情が顔を出す。そういう手法が普通なのだが、この作者の場合、まず語り手の心情Bが大前提としてあって、それに忠実であろうとするがために状況Aがいくつにも細分化されてしまう。普通なら状況の裏に隠れている語り手の心情が初めから顕わにされていて、状況は心の動きにつれて変化する背景と化している
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