批評祭参加作品■〈日常〉へたどりつくための彷徨 ??坂井信夫『〈日常〉へ』について/岡部淳太郎
かつて〈グル〉と呼ばれた男は/髭だらけの顔でブラウン管のなかに笑っていた」とあり、「平安をもたらすはずだった男とその仲間は/いつのまにか殺戮をなりわいとする軍団となり」という記述がつづく。そして章の終りで「餌をあたえていた男は立ちあがると/穴のあいた掌(てのひら)を宙にむかってかざした」という記述があって、そこで初めて読者はこの男が「釘男」であることを知る。途中の「かつて〈グル〉と呼ばれた男」の記述は一種の新興カルト教団の教祖を思わせるが、それがさりげなく「餌をあたえていた男」と重ね合わせられているような書き方がなされている。そして「17」での「ひとりの骸骨」となってしまった釘男だが、彼が首から
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