批評祭参加作品■〈日常〉へたどりつくための彷徨 ??坂井信夫『〈日常〉へ』について/岡部淳太郎
からぶら下げている板には「××の王」と書かれているのだ。このような記述を見ていくと、釘男がイエス・キリストを模倣した存在のように思えてくる。そういえばキリストも磔刑の時に掌に釘で穴を開けられている。最初に話者の前に登場した時に「鴉の屍をぶらさげ/それを五寸釘で扉にうちつけた」とあるのも、釘男の出自を遠回しに言い表しているようで興味深い。だが、釘男はただ単純にキリストそのものの象徴となっているわけではないだろう。詩集の前半でまるで死神のように見えるふるまいをしていたあたりを見ると、生(あるいは聖)と死の境界に立つ者という表現がふさわしいかもしれない。そう考えると、釘男が玄関の前に立っているのも何やら
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